<%@LANGUAGE="JAVASCRIPT" CODEPAGE="932"%> 新私の演劇時評
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「3 on 3 〜喫茶店で起こる3つの物語」?

三人の作者による三十分程度の短編をそれぞれ三人の演出家でみせるオムニバス形式の舞台。舞台装置である喫茶店は三編に共通、つきものの「マスター」も、役柄は変われど同じ俳優(河内喜一朗)が演じるという面白い仕掛けである。
主催は(社)日本劇団協議会とあるが、こういうちょっと変わった公演を企画できるプロデューサーがこんなところに(失礼!)潜んでいたとは驚きである。内容はともかく、三人の作家に共通のテーマを与え、なおかつ演出家には舞台装置を共用させるという厄介な条件を飲ませたうえに、全体としてまとまった印象を作り出すという手腕には、並々ならぬものを感じる。しかも、この公演をプロデューサー自身が最も楽しんでいるふう(のりがいいとでもいえばいいか)なのも見ているものとしては愉快である。
舞台正面にカウンター、両脇に出入り口、下手に店のドアがあり、大きく開いたガラス窓越しに植栽が見える。下手手前のイーゼルに黒板が置かれていて、劇のタイトルが「めくり」のようにその都度チョークで書き直されるという趣向である。
第一話「コーヒーと紅茶、そこに入れるべきミルクと砂糖について」は、家族の話。
マスター、 小沢博司(川内喜一朗)に気がある常連客の尾林久美子(渕野陽子)がカウンター席に陣取って盛んにモーションをかけている。脱サラして店を開いたばかりというマスターには家族がいないことを知っている。他に客がいないところを見ると暇なのであろう。そこへ初めて見る中年の女性客(井上夏葉)が現れ、店の中をあちこち眺め渡したあげく、隅の席に着いてコーヒーを注文する。
少しして、久美子が一人でいると、かなり派手な格好の若い女が入ってくる。喫茶店を隅から隅まで点検するように見ている女を訝しそうに見ている久美子。マスターが戻ってびっくりする。この女は小沢ミサ(小暮智美)、マスターの娘であった。母親が亡くなった六年前に家をでて行方をくらましていた。それが突然帰ってきたのである。
九州のアルバイト先の店長と今度結婚することになったから認めてもらいたいというのであった。なにを薮から棒に、そんなことは許すわけにいかないというと、相手をつれてきているから呼んでくるという。
やがて現れた高田健一(山崎秀樹)はいわゆるクラブの経営者でアルバイトホステスのミサにほれたということであった。商売柄に合わない禿頭に太って大きな体、純朴そうな態度である。当惑するマスターを追いかけ回して結婚の了承を迫る、というドタバタが始まる。ミサが家出した頃のことを持ち出してマスターを責めると、なぜか中年の女性客が話に割って入って、すべて知っているというそぶりでその場を収めようとする。仕事ばかりで家庭を顧みることがなかった父親が、がんで倒れた母親を看取ることもできなかったことを恨んで娘は父親から離れたのであったが、その中年の客は互いに誤解があったのでしょうとなぐさめる。ふたりとも妙に優しい気分になって、互いに認めあう気にさせられる。その女性客は亡き母親が姿を変えてこの世に現れたのではないかということを観客に思わせながらほのぼのと幕。
作者の泊篤志は劇団「飛ぶ劇場」代表ということだが、僕は今回が初見。構成といいテーマといい、劇作をよく心得ている巧者の手腕を感じさせる。ノーマルにも喜劇にも仕立て上げられるところを千田恵子の演出は、俳優に極端なキャラクターを配して喜劇性を強調した。山崎秀樹のキャバクラ社長というのは、リアリティに欠けるともいえるが、かえってこの意外性がテーマをくっきりとさせることになった。娘の小暮智美は父親への反感をもっと強調してもよかった。
第二話「リバウンドチャンス」は結婚適齢期をすぎようとしている女性の恋愛心理、今風の言葉でいえば「アラフォー」がテーマ。
携帯を手にした二人の若者、ユウタ(相原嵩明)とユウジ(相笠恵祐)が「…それって、ださくねぇ?」とか「まじっ、だせい!意味わかんねぇ!」とか典型的若者言葉を交わしながら登場し、席に着いたところに、同窓会帰りという四人の女が現れる。
山瀬美香(佐野美幸)と阿部智美(歌川椎子)は既婚者。森島蓮(星野園美)は離婚経験者である。もう一人の羽生遼子(椿真由美)は花の三十代キャリアウーマン独身である。学生時代にあこがれの君だった男に再会し、全然印象が変わっていなかったことに驚いたと興奮気味に遼子が言っている。どうやら恋をしたらしい。恋をし直したというべきか。相手も独身で結婚に障害はなさそうである。次のデートの約束を取り付けた。さて、これからどうしようか?
恋をしたとはいえ一緒になるとしたら、相手にこうあってほしいという注文は山ほどある。今日までわがまま放題に生きてきたのに自分は我慢できるかしら?いや相手が我慢できるか?娘っこと違っていろいろ人生経験が豊富だから、結婚生活について不安はつきない。その辺りの本音をあからさまに打ち明け、それを三人の経験者が批評し、デートに至るまでの知恵をつけ励ます。
数日後、デートの首尾がどうだったかの報告会をかねて四人が集まっている。うまくいったという印象ながら、この後の進展があるのかないのか、喧々諤々議論はつきない。
作者は自転車キンクリートの飯島早苗。このあたりの女性心理を描くのは最も得意な分野に違いない。かまびすしい女のやり取りがいちいち真に迫って説得力がある。本人たちはそれなりに真剣きわまりないのだが、端で見ていると抱腹絶倒の面白さがあって立派な喜劇になっている。
燃えるような恋をしたいとは思うが、うまくいったらいったでそれも不安。打算もあるけど奔放にという気もある。そういう分別盛りの色恋話を一定のレベルを保って(品よく)あけすけに見せてくれた。同世代の女性たちには共感を持って迎えられたことだろう。僕も大いに感心し大いに笑った。
椿真由美は、相変わらず何をやらせても達者。「ガッハッは!」と笑ってのけぞって、勢い余って、品がなくなる寸前までいくスリルを味わわせてくれるのは、酒の肴、例えばうまい塩辛でもなめるような楽しみでもある。
須藤黄英の演出はベテラン女優陣の勢いにまかせたところも見られたが、全体として喜劇になるような目配りを忘れなかった。この恋の行方がどうなるか結論を期待させるだけ期待させ、後は勝手に想像してくれと言わんばかりにすとんと落とす。このあたりの切れ味には感心した。
第三話「鰻屋全焼水道管破裂」は文字通りのドタバタ劇。
喫茶店の建物の水道管が具合が悪というので朝から工事が入っている。地面を掘り起こしているらしく凄まじい騒音が響いている。
店には、上手の端のテーブルに白髪の紳士(山野史人)がすわり、こちらに背を向けて顔は見えないが和服姿の婦人(泉晶子)と向かい合っている。
他に、振り込め詐欺の若い男とその女の連れ、水道工事の親方(山野史人)とその社員が出入りしている。店の向かいにある鰻屋では映画のロケ撮影が行われており、目下の所その出演者である女優(遠藤好)が喫茶店の二階の部屋を借りて休憩している。これがサングラスをかけて時々店に顔をのぞかせ、マネージャーと出番の打ち合わせをしている。映画の監督も時々やってくる。鰻屋ではどうやら火事の場面の撮影をしているらしい。
これらの人々がドタバタと舞台を出入りし、凄まじいほどの忙しさで高回転する。その出入りもいちいち理由があってのことで、曖昧なところは何もない。それが工事の地をうがつ音と相まって舞台に騒然とした空気をまき散らす。
すぐに気がつくのであるが、これは全員が二役をやっているという仕掛けになっている。逆に言えばその仕掛けを楽しませるために役を作っているといってもよい。これに気づくと、後はそれを楽しむばかりである。舞台裏でどういうことになっているかを想像したら二倍楽しめるというものである。
この入れ替えのスピードがだんだん速くなって、ついにクライマックスが訪れる。喫茶店の裏の水道管が大音響とともに破裂し水が溢れ出す。向かいの鰻屋の撮影現場では本物の火事になってしまい消防車の出動と相成る。もはや誰が誰だかわからなくなる混乱の中、後ろ向きのご婦人が立ち上がり店を出て行こうとすると、初めて正面を向いたこの女性が盲目であったことが明らかになる。それが落ちであった。
緻密に練り上げられた二役入れ替わりの本で、それが表すエネルギーは確実に伝わってきた。振り込め詐欺やわがまま女優など時宜にかなった役柄を盛り込んであるとはいえ、この芝居の面白さはいうまでもなく二役早変わりの妙にある。作者は倉持裕、劇団「ペンギンプルペイルパイルズ」主宰ということだが、僕は初めて体験した。これだけでは何を考えているかわからないが、かなりの書き手だと言うことだけは確認した。
注目していこうと思った。

全体として非常に面白い企画で、完成度も高かった。難しいことを言わない観客にとっては十二分に楽しめる芝居で、これなら地方公演にまわしても客は入りそうだ。

      
 
 

題名:

3 on 3 〜 喫茶店で起こる3つの物語
●コーヒーと紅茶、
 そこに入れるべきミルクと砂糖について
●リバウンドチャンス
●鰻屋全焼水道管破裂

観劇日:

2008/06/27

劇場:

青年座劇場

主催:

青年座

期間:

2008年6月22日〜29日

作:

泊篤志: コーヒーと紅茶
飯島早苗:リバウンドチャンス
倉持裕: 鰻屋全焼水道管破裂

演出:

千田恵子: コーヒーと紅茶
須藤黄英: リバウンドチャンス
磯村純: 鰻屋全焼水道管破裂

美術:

島次郎

照明:

中川隆一

衣装:

竹原典子

音楽・音響:

堀江潤

出演者:

コーヒー:井上夏葉 渕野陽子 山撫G樹 小暮智美 河内喜一朗(スタジオライフ)
リバウンド:椿真由美 佐野美幸 歌川椎子(自転車キンクリート) 星野園美(石井光三オフィス) 相原嵩明 逢笠恵祐 河内喜一朗
鰻屋: 山野史人 泉晶子 遠藤好 高義治 宇宙 名塚佳織(フリー) 石井揮之(青年座映画放送) 河内喜一朗(スタジオライフ)

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