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「戸惑いの日曜日」

タイトルに「『アパッチ砦の攻防』より」とあるのは、96年の初演の時にはその題名だったものが、再演のたびに登場人物が増え続けて、とうとうタイトルを変えてしまったものらしい。そうはいっても、舞台となっているのはいわゆる億ションである「『フォートネス・アパッチ301号』のリビングルーム」で変わっていない。なぜ変える必要があったのかは不明である。
何年か前に偶然WOWOWでやっているのを見ている。その時はどっちのタイトルだったか確かめていないが、佐藤B作と伊東四郎の「攻防」が面白くて、物語はいたってシンプルだったような気がする。今度のは、やたらに関係者が多くなって騒々しくなったがそれほどやる必要があったかどうか?

マンションのリビングで、鏑木(升毅)を尋ねてきた娘ちよみ(中澤裕子)が結婚することになったと報告している。婚約者を紹介したいと呼びにいくと、入れ替わりに一人の男がゴルフバッグを担いで入ってくる。この男鴨田巌(西郷輝彦)は、鏑木を見て『君は誰だ。ここで何をしている?』という。何だか様子が変だ。

実は、鏑木は数日前までこの部屋に住んでいたのだが、事業に失敗して借金を負い、マンションを売却したのであった。それを購入したのが鴨田で、今やこの部屋の持ち主である。鏑木は慌てて、自分は近所の電気屋だが奥さんにテレビの配線を見てくれと言われてきたという。「それなら早くビデオが見られるようにしてくれ。」と鴨田。
娘から電話をもらって、見栄っ張りの鏑木が、家を売ったとは言えず日曜に会う約束をしていた。この家の奥さん、鴨田まち子(石野真子)が電気屋に配線を頼んでいるのを小耳に挟んだ鏑木が、この日電気屋になりすましてまんまと家に入り込んだのであった。亭主はゴルフとばかり思っていたら、腰が痛むといって途中で引き返してきた鴨田と出会ってしまったのだ。困ったことになった。まもなく娘が婚約者の男(小林十一)を連れて戻ってくる。

娘たちとは、どうやら鴨田をごまかして会うことができたが、それで終わりというわけにいかなかった。その時の話では、娘の母親、鏑木にしてみれば二十年前に別れた元妻(あめくみちこ)が久しぶりにやって来るというのである。また、婚約者の両親がたまたま近所に来たからちょっとご挨拶に寄りたいといってくる。逃げ出すわけにもいかず、鏑木は鴨田とその奥さんをごまかして、他人の家をわが家のように見せかける綱渡りの対応を見せる。
そのうちに本物の電気屋(小島慶四郎)が現れ、これをリビングから遠ざけると、こんどはフィリピンパブで知りあった鏑木の現在の同棲相手がやって来る。そこへ、鏑木の正体を知っている不動産屋の寺門(佐渡稔)が、なんと鴨田の妻の浮気相手として登場、いよいよ鏑木は窮地に立たされることに・・・

どたばた、はらはらさせながら大いに笑わせてくれる傑作喜劇である。まともに考えたら「ありえねー」というシチュエーションでも、とにかく強引に見せてしまうところが作家の手腕で、三谷幸喜の才能はこういう芝居にもっともよく発揮される。初演の佐藤B作と伊東四朗の組み合わせは、なんとも『おかしみ』の迫力が違っていたが、ひょっとしたらあて書きだったかもしれない。こういう究極の窮地に立たされてのらりくらりどうにかごまかしていくのは、B作得意の役どころで、一方の伊東四朗は知らんぷりして残酷なまでにぎりぎりと突っ込みを入れるのがもともとの身上である。

こんどは佐藤B作がガンの手術後の療養ということで、やむなく降板したらしいが、升毅でわるいこともなかった。難を言えば、「二枚目」過ぎる点と少しまじめに見えることくらいか?西郷輝彦は、すでにこの役を何度か経験しているようだ。伊東四朗と比べるまでもないが、俳優としての舞台経験の豊富さはそれなりに現れていて、一味違った鴨田を表現していたといえる。
石野真子、中澤裕子といったアイドル歌手出身の女優もそれぞれ役どころを得て無難にこなしていたが、細かいことをいえば、せりふと動作のお仕舞に締まりが無い。多分に演出の責任だが、こういう基本はきちんと教え込んでおかなければならない。
また、松竹新喜劇の小島慶四郎はさすがに出てきただけで「おかしさ」がそこら中に漂う怪優であった。こういうベテランを前にしては、升毅も迫力不足といわれても文句は言えないだろう。この「本物の電気屋」を見ただけでも木戸銭分はあったというべきだ。

どたばたに終始していた芝居のお仕舞を、しんみりとした人情喜劇として締めくくったところが、 三谷幸喜の偉いところで、これでサンシャイン劇場にやってきたご婦人方も満足だったろう。
こういう肩の凝らない芝居もたまには見たらいい。

 

 

 

 

題名: 戸惑いの日曜日
観劇日: 2008/09/05
劇場: サンシャイン劇場
主催: サンシャイン劇場
期間: 2008/09/01〜9月15日
作: 三谷幸喜
演出: 佐藤B作
美術:
照明:
衣装:
音楽・音響:
出演者:
西郷輝彦 升毅 石野真子 あめくみちこ 中澤裕子 小島慶四郎 角間進 佐渡稔 市川勇 小林十市 山本ふじこ 市瀬理都子 斉藤レイ 小林美江

 

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